【障害年金】年金は障害を持っていると受給する事ができる?受給について立ちはだかる壁について【現役相談員解説】
障害に携わっている仕事をしていると、「お金の問題」ということに頻繁にぶち当たることになります。
私が勤めている地域活動支援センターでは、色々な理由で就業することができず、お金に困っている人たちが多くいるのですが、そこで一つの利用制度として「年金」があります。
年金というと「高齢者がもらうもの」というイメージがあるかもしれませんが、年金にはいくつか種類があり、障害者も年金受給の対象になっています。そのため条件さえ満たすことができれば、年齢の要件を満たしていなくても、受給をすることができます。
このように、年金は最低限の生活を保障するシステムとして、日本の福祉のレベルに貢献しているわけです。
今回はそんな「障害者がもらうことができる年金」について、地域活動支援センターの専門職をしている筆者が解説させていただきます。
重度重複障害児者の生活介護事業所にて3年の生活支援員を経験後、地域活動支援センターにて社会福祉士・精神保健福祉士として勤務。発達障害・精神障害を持つ利用者との関わりが主であり、障害福祉に関しての研修も担当しながら経験を積んでいる専門職3年生。ブログを通して障害福祉に関する情報を発信している。
障害年金について
まず「障害年金」について解説させていただきます。
と言っても、基本的なものは「通常の年金」とさほど変わらず、「国民年金・厚生年金などの保険料を支払って、特定のタイミングで申請をすることで受給することができる」というものです。
これらの年金の保険料は、基本的に給料から天引きされる形で引き落としがされているので、一般的には給料の明細をしっかり見るとわかることなのですが、実は年金の保険料は下記のようになっています。
どうしてこのような事になっているのかというと、下のように明確な目的の違いがあるからです。
・基礎年金 どんな状態な人でも保険料を集めるかわり、どんな人でも受給できる
・厚生年金 仕事をしている人で、稼いだ金額に応じて高い年金を受給する事ができる
基本的に年金は、この2つを「2階建て構造」ということを前提にしています。
近年よく言われている「老後は2000万円の資金が必要がある」という試算は、今までの平均的なものから割り出されたものです。
しかしそれだけを年金で賄おうとするとかなり困難なので、「2階建てでまかないましょう」というものが大まかな目的です。
一方で何かしらの事情で「働くことができない人たち」もいます。そんな人たちが年金や他の制度を利用して生活をするために、基礎年金というものがあります。基礎年金は厚生年金と違って、原則多くの人が受給の可能性があります。
障害年金の壁
基本的に障害年金は、障害を持っている人たちであれば申請し、それが承認されれば受給する事ができます。
具体的には下記の条件を満たす場合に申請する事ができます。
①:障害の原因(病院や怪我など)の際に受診した最初の日(初診日)が、国民年金加入期間にある。(初診日要件)
②:障害の状態が、およそ1年6ヶ月経過した障害認定日に、障害等級表の1級・2級に該当する人たち。(障害状態該当要件)
③:初診日の前日に、初診日がある月の前々月までの被保険者期間で、国民年金の保険料納付期間と保険料免除期間を合わせた期間が3分の2位上あること(保険料納付要件)
参考:日本年金機構HPより「障害基礎年金の受給要件」
これらの要件を全て満たした場合に障害基礎年金の申請をすることができるのですが、実はこれは下記のような非常に大きな壁があります。
・障害年金は原則、「自分自身で」申請しなくてはいけない
・制度そのものが非常に複雑である
・対象となる障害は決まっている(特に精神障害は大きな壁になる)
・その他関係機関との関係が大切になる
これらを一つ一つ見ていきましょう。
1.障害年金は原則、「自分自身で」申請しなくてはいけない
最初の壁として、障害年金は他の障害福祉のものとは異なり、「自分自身で申請する」必要になります。
前述の通り年金のシステムは非常に複雑であり、「自分が申請するのはどれなのか?」「どんな書類を集める必要があるのか?」「そもそも言葉の意味はなんなのか?」など色々な壁があります。
実際に障害年金を申請する際、最低でも下記のような書類が必要になります。
・年金申請書
・医師による診断書
・病歴就業状況等申告書
これらのものを見て、イメージできる方のほうが少なく、特に「病歴就業状況等申告書」は、場合によっては出生時点から生活歴を遡って振り返る必要があるなど、個人で行うにはかなりハードルが高い内容になります。
このような申請を基本的には自分の手で行う必要があり、ここが一つの脚切りラインとなる場合もあります。
2.制度そのものが非常に複雑である
申請の壁と双璧をなすものが、「年金の制度そのものが非常に複雑である」という部分にあります。
まずこの記事にまでたどり着けた人でも、「年金というものは〇〇があって~~をすれば受給ができて~」とサラサラと答えらえる人は少数であると思います。
というより、むしろ福祉の専門家であっても、専門外の人は申請の手続きは全くやったことがないという人のほうが多いでしょう。直接支援で働いている生活支援員などの職種であれば、その工程すら曖昧な人も多くいるほどです。
確かに年金は「基礎年金」や「厚生年金がある」ということまでは分かっていても、実は下記のような種類があります。
・老齢年金(基礎・厚生)
・遺族年金(基礎・厚生)
・障害年金(基礎・厚生)
これらは公的年金と呼ばれ、国が管理しているものであり、これ以外にも「私的年金」というものが全く別に存在します。
更に年金は「被保険者」というように、実際に年金を支払う人たちが1号から3号まで分けられており、それによって給付される年金が変わります。ここまで複雑なものであることから、年金手帳というもので一括管理されているというわけです。
申請の際はこれらの種類で「どの年金を」「どのような手続きによって」「どうやって申請するか」をすべて把握する必要があります。
そこまでのことを自力で行うということはかなり厳しく、この制度の難解さが大きな壁になります。
3.対象となる障害は決まっている(特に精神障害は大きな壁になる)
年金には色々な種類があって、色々な人が受給できるということは前述の通りです。
ですがここで一つ落とし穴があり、「年金は申請をしたところで、認められない場合もある」ということです。
老齢年金の場合はこの限りではないのですが、傷病によって発生する障害などは、「それが本当に年金の受給において適切であるか?」ということを判断されることとなります。
ここで問題になるのが「精神障害を理由とした年金申請」です。
精神障害は現在においてもその歴史的な背景から、未だ十分な精度の拡充があるわけではありません。加えて、「精神的な部分に障害がある」ということから、等級表においても記述がかなり曖昧で、他の障害に比べると客観的に判断することが困難なケースが多々あります。
また精神障害は、「初診日の決定」において困難が生じる場合があります。なぜなら、精神障害から発生する体調の変化から、当初「これは内科かな?」と思って診断に行ったら、「精神科で診断を受けた」ということも多々あります。
こうなれば複数の医療機関を受診した事になり、年金受給において最重要項目となる初診日の確定がややこしくなる場合があります。
これらに加えて、「医者とぶつかってしまう」ということもあります。障害年金の受給には診断書が必要なのですが、そこで診断書を書く主治医と意見が対立してしまうことがあります。
残念ながら、障害年金の受給において医者の意見である診断書は非常に大きな判断材料になります。そこで良い判断を貰えない場合、いくら状況が切迫していても障害年金を受給できない場合があります。
このため、精神障害における年金の申請は困難を極めることがあります。
4.その他関係機関との関係が大切になる
前項において、「医者との関係性が大切」を挙げたのですが、年金申請において「本人のみで作成できるもの」は非常に少ないのです。
大抵の場合は「医者」になるのですが、それ以外でも「年金事務所」との関係づくりも必要になってきます。
年金事務所では、年金にまつわる色々な相談をすることができるのですが、そこでも対人ということで、合う合わないがどうしても出てきます。
年金事務所での人間関係はたしかに直接的な申請に関わるものではないかもしれませんが、「わからないときにすぐに聞ける」ということは非常に重要な要素です。何にしろそれだけ申請の難しさがあります。
その時に好意的な返事をくれる人間関係を作っておくことはとても大切になります。
また、「どうしても一人で申請なんて無理!」という人も、福祉系の手続きをされている社労士に依頼することも一考かもしれません。
現に年金申請について検索をかけると、社労士の方々の意見や手順が多く出てきます。そのようないわゆる「お金の専門家」に頼ってみるのも良いでしょう。
壁を乗り越えるためには
障害年金の申請は、前述の通り多くの壁があり、非常に大変な出来事です。
それではこれらの壁は、どのようにして乗り切ればよいのでしょうか?
ここで重要になってくるのが、「どれくらいの人が協力してくれるのか」ということです。基本的にこれらの申請は、「本人が申請する」ことが前提になっているのですが、これらのものを全て一人で揃える事ができるのは、殆どの場合は「福祉・お金の専門家」くらいのものです。
しかもこれらの専門家においても、ある程度の経験が絶対に必要になってきますし、「障害年金を受給できる等級にある状態」でそんな事ができる人のほうが少ないと断言できます。
筆者も地域活動支援センターにおいて、「年金の申請を手伝うこと」ということが定期的にあるのですが、その時もかなり準備に時間をかけて、本人と年金事務所に足を運ぶことが多くあります。
そのため、一人でこれらのことを超えるのはかなり無謀であると言えます。
まず必要なのは、下記のようなことを確認することです。
①:自分が申請する年金がどれかを理解する
②:周りの社会資源を確認する
③:専門家と関係を作っておく
③:相談できる専門家がいた場合、しっかり不安に思っていることを相談する
まとめ
1.年金は高齢者だけではなく、障害を持った時も受給できる可能性がある
2.障害年金の受給には幾つか大きな壁がある
3.特に精神障害の受給は難しい場合がある
4.壁を乗り越えるためには相談できる専門家がオススメ
今回は障害年金について概要を解説させていただきました。いかがだったでしょうか? 比較的有名な制度である年金ですが、ここまで具体性を持って知っている人は少ないのではないでしょうか。
年金は確かに「将来もらえなくなる時が来る」かもしれません。しかしそれで年金を支払わないということは早計です。なぜなら、年金は必ずしも高齢になった時にもらえるものではなく、これらの恩恵を得るためにはしっかりと日頃から年金を支払う必要があります。
ただでさえお金が少ない中で、これらのものを「ただ納税をしている」という意識だけでは、これらの制度を有効に使って味方につけることが出来ないかもしれません。そのためにも、自分たちが支払っているお金について、少し考えて見るのも良い機会になるのではないでしょうか?
それでは本日の解説は以上です。このサイトでは、福祉に関する色々な情報を、現役相談員である筆者が解説していますので、ぜひ他の記事もご覧くださいませ。
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