【合理的配慮】障害福祉における「配慮」の形である合理的配慮とは?【専門職が解説】
※この記事は「厚生労働省」の記事を参考に作られています。福祉サービスは自治体により内容が異なるため、実際の福祉サービスの利用の際には必ずお住まいの自治体にお問い合わせください。
障害福祉の中で頻繁に話される用語として、「合理的配慮」というものがあるのですがご存知でしょうか?
昨今の障害福祉の現場は勿論のこと、最近では多くの場面で「合理的配慮」が求められることが増えてきています。
福祉の現場では頻繁に聞かれることも多くなったこの「合理的配慮」という言葉は、令和6年4月1日から「合理的配慮の提供の義務化」がなされるようになりました。
これは令和3年から障害者差別解消法の改正によって、社会全体で「障害のある人への合理的配慮を義務化する」という動きが出てくるようになりました。
しかしながら、合理的配慮を義務化するというところで、「合理的配慮とは?」という難題をまず理解しないといけなくなりました。
福祉の言葉の一つである「合理的配慮」とはそもそもどのようなことを指しているのでしょうか。この記事では「合理的配慮」について解説させていただきます。
重度重複障害児者の生活介護事業所にて3年の生活支援員を経験後、地域活動支援センターにて社会福祉士・精神保健福祉士として勤務。発達障害・精神障害を持つ利用者との関わりが主であり、障害福祉に関しての研修も担当しながら経験を積んでいる専門職3年生。ブログを通して障害福祉に関する情報を発信している。
合理的配慮とは?
まず合理的配慮とはどのようなことを示すのでしょうか?
合理的配慮については、内閣府より出されている概要として下記のように書かれています。
● 日常生活・社会生活において提供されている設備やサービス等については、障害のない人は簡単に利用できても、障害のある人にとっては利用が難しく、結果として障害のある人の活動などが制限されてしまう場合があります。
内閣府:リーフレット「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!」合理的配慮の提供とは より
● このような場合には、障害のある人の活動などを制限しているバリアを取り除く必要があります。このため、障害者差別解消法では、行政機関等や事業者に対して、障害のある人に対する「合理的配慮」の提供を求めています。
この説明では比較的優しい言葉で書かれているのですが、それでもやや漠然としたイメージを持ってしまい、「結局どういうことなのか?」や「どうすればいいのか?」と悩んでしまう人も多々いるでしょう。
合理的配慮とは、障害のある人が「障害があるため」、教育や仕事、余暇活動などの参加が難しかった場面を、少しずつ障害のある人でも参加できるようにしていこうという考え方です。
具体的に障害のある方は、下記のような場面で「参加の難しさ」を感じる場面があります。
- 足が不自由で車椅子に乗っていると、段差が超えられずその場所に移動できない
- 読み書きが障害によって難しい場合であると、学校の授業の時に板書などが出来ない
- 耳が聞こえないため、市役所での申請の手続きができない
上記のものはすべて一例にしか過ぎないのですが、今まではこれらが「障害があるから仕方がない」とされていたのですが、そこで出てきたのが「合理的配慮」という考え方です。
上記の例では、具体的に下記のようなことをすると、障害による特性を考慮して参加を促すことができます。
・肢体不自由の人でも利用できるようにバリアフリーにする
・学校の授業のなかで、板書を写真撮影する事ができるようにする
・市役所の申請時に、筆談で対応できるようにする
このように、少し対応を変えることでこのように、「今までできなかったことが対応できるようになる」ことができます。
とはいえ、この合理的配慮をすべての事業者が行うのは困難ですし、障害の種類によって具体的な例も全く違います。
この記事では、障害に合わせた具体例を提供させていただきます。
身体障害の合理的配慮
身体障害は、肢体不自由などのイメージが強いかもしれませんが、実は「内部障害」全般も身体障害に分類されます。エイズ感染やペースメーカー、ストーマなどの人工的な臓器もこれに入ります。
実際そこまで範囲を拡大すると難しいため、代表的なもののみを下記にて列挙させていただきます。
- 事業所内のバリアフリー化(肢体不自由)
- 筆談や読み上げなど障害に合わせたコミュニケーション(視力・難聴)
- 電子機器使用の制限(ペースメーカー)
このようなことが合理的配慮とされています。
身体障害は、視覚障害・聴覚障害などの幅広いものであり、一般的なイメージの合理的配慮はこの部分であると考えられます。
知的障害の合理的配慮
知的障害のある方に対しての合理的配慮は、「相手の理解レベルに合わせて説明をする」ということが最も強いかもしれません。
とはいえ、知的障害のある方は支援者がいる場合も多いので、その人を通じてのコミュニケーションをする場面もあるでしょう。
それでも、合理的配慮では下記のようなことに気をつけなければいけません。
- 支援者がいる場合でも、本人の意志を尊重できているか確認する
- 支援者とばかり会話してしまっていないか配慮する
- 支援者がいない場合、相手の不利益になるような誘導はしてはいけない
これらのことは常識的な事かもしれませんが、知的障害のある方は制度の理解や、説明の理解が難しい場合があります。
そのためどうしても、「本人の意見」が蔑ろにされてしまう場面があるため、このようなことを避けるためにも上述のところに気をつけなければいけません。
発達障害の合理的配慮
発達障害のある方は、極端なこだわりや多動的なものが代表的ですが、読み書きの困難を伴う限局性学習障害などに配慮をする場合があるかもしれません。
また、自閉的な傾向が強い場合は、人が多いところや慣れないところでの活動が困難になる場合もあるため、下記のようなことに配慮が必要になる場合があります。
- 読み書きが困難な場合は、読み上げやサインなどに補助をする
- 落ち着いた場所での作業や説明がけができるように場所を確保する
- 支援者がいる場合、その人だけと会話していないか、本人の意思が中心であるかを留意する
知的障害と重複しているものも多いかと思いますが、これらはそれぞれとても重要なことなので、「本人の意思」というものがしっかりとそこに反映されているかを確認することも、合理的配慮の一つであると言えます。
精神障害の合理的配慮
精神障害のある方は、発達障害と似ていて、騒がしいところや本人が不慣れな場所などでの作業や申請などの手続きが困難な場合があります。
そのため、場所や環境の配慮は特に重要になってくるかもしれません。
また、精神障害のある方はセルフケアが苦手な人が多く、その時の気分次第で「自分にとって不利益が生じてしまう可能性」ということを考慮できずに判断してしまう可能性があります。
そのため、そのような場面においても声がけが必要になることがあります。
具体的には下記のようなことが考えられます。
- 静かな環境や落ち着いて作業できるように場所を確保する
- その時の決断が将来的にどのようなことになるかを含めて話をするように配慮する
- 依存症などの傾向がある人には原因物質を近くに置かないように配慮する
精神障害は幅広く、またその人それぞれの性格的な面にも左右されるので、合理的配慮の際は対話がとても大切になります。
対応困難なケースはどうすれば良い?
この記事では、合理的配慮についていくつか具体例を交えて解説させていただいたのですが、「そんなことは業務上することができない!」と思われた方もいるかも知れません。
例えば、「バリアフリー化」なんて、資金的な都合で難しい場合ももちろんあるかと思います。実際、内閣府が出しているパンフレットには、「建設的対話」が大切であるとしていおり、すべての障害におけるバリアを必ず取り払わなければいけないとは記載していません。
実際、これらの合理的配慮をすべて取り入れて事業を行うのは現実的に難しい場面のことが多いでしょう。
大切なのは「社会的なバリアがある時に、一方的に障害を理由にして突っぱねることができない」ということです。そのため、建設的対話を用いて双方が納得する形を取れるように努力することが本来の目的になります。
例えば下記のような例があったとします。
この例に対して、具体的な合理的配慮およびその対話の方法として、下記のようなものが考えられます。
- 車椅子対応の席の確認
- 車椅子対応の席がない場合でも、介助を利用して利用できないか確認
- 事業者の対応が難しい場合は、周囲の声がけや職員の周知などで体制を整えて、ヘルパーなどを利用することができないかを確認
このように、「環境整備ができなくても考えられる対応」というものはいくつもあります。
合理的配慮を義務化するということは、いわばこれらの対応をしていくことになります。
すべてのことを「難しいから」として突っぱねることはもちろん良くないことかもしれません。しかし、事業者の負担が今までよりも過剰になってしまえば、それはそれで継続的な社会形成は不可能になります。
建設的対話を通して、お互いの間で合理的かつ効率的な配慮を考えることを促すということが、この「合理的配慮」であると言えるかもしれません。
まとめ
今回は「合理的配慮」について解説させていただきました。
まとめると下記のようになります。
・合理的配慮とは、障害を持つ人たちの障害特性を考慮して社会参加や余暇活動の参加のバリアを取り払うこと
・合理的配慮はその障害に応じて、対応する方法が異なる
・合理的配慮は必ず障害への考慮をするのではなく、対話によってその妥当性を図る必要がある
・環境整備が難しい場合は、現状することができる対応をする必要がある
合理的配慮は障害者差別解消法によって、明確に法整備がなされたことから、合理的配慮の提供義務化がなされました。
確かに障害者にとって暮らしやすい環境づくりとして、大きく前進したと言えるかもしれません。
しかしながら、それは今までの体制を取っていた人たちにとって大きな負担になるでしょう。勿論、合理的配慮の提供は間違いなく社会にとって良いことだと思いますが、それはそこの社会で暮らす多くの人とのバランスを取って初めて成立することです。
だからこそ、建設的対話という概念が大切になってきます。
各々にとって、必要なことを話し合い、大切なことの折り合いをつけていくことが今後の社会では必要になってくるかもしれません。
このサイトでは、「障害福祉」に関する様々な情報を発信しています。身近な人で障害を持っている人がいる、障害を持ってしまったけれどどうしたら良いかわからない、人たちへ適切な支援につながる事ができるように、これからも適切なソースに従って記事を投稿を心がけています。
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