【コラム】生活保護によくある誤解を数字から考えてみよう【生活保護】

※この記事は「生活保護」に関するコラム記事となっています。各ページより参考にさせていただき、正確性に基づいた記事を書いていますが、あくまでも「現時点」での話になります。

 最近、生活保護に関して、「車を持ったら保護を止められた」という話がありました。上記の内容については、下記のYahooニュースを掲載させていただきます。

 こちらの記事では保護を受けている人の視点が話されていますが、コメント欄は基本的に賛否両論であると言った印象です。

 当然ながら筆者にしても、これに対して良い悪いということを決めることは無意味だと思います。
 この問題に対して、しっかりとした理解を得るためには、まず「生活保護」について様々な面から理解する必要があります。

 このサイトでは、生活保護について解説した記事があるので、概要についてはそちらをご覧いただければと思います。

 上記を踏まえて、この記事ではより客観的に「数字」から生活保護について勉強していくことを目的としています。
 最後までご覧いただければ幸いです。

この記事を書いた人
寂 あまどい

重度重複障害児者の生活介護事業所にて3年の生活支援員を経験後、地域活動支援センターにて社会福祉士・精神保健福祉士として勤務。発達障害・精神障害を持つ利用者との関わりが主であり、障害福祉に関しての研修も担当しながら経験を積んでいる専門職3年生。ブログを通して障害福祉に関する情報を発信している。

生活保護と捕捉率

Kevin NorrisによるPixabayからの画像

 生活保護の制度については、前々からそのネガティブなイメージを持っている人が非常に多くいるかと思います。
 様々な意見があるかもしれませんが、具体的なイメージや意見として、下記のようなものがあるでしょう。


  • 働かないで生活することができる
  • 税金で何もせずに生活できるのが嫌
  • 不正受給の可能性がある
  • なんとなく差別意識がある

 生活保護はそれ自体が「センシティブな話題」であるとされる場面があり、なかなか表立って批判的なことを表現する人はいないかもしれません。

 しかしながら、世間的なイメージによってできている生活保護のイメージから、上記のようなことを抱く人は少なからずいるのは間違いなく事実でしょう。

 そこにはいくつもの要素が隠れているのかもしれません。その多くのものが「生活保護という制度をよく知らないから」という原因で起こっている可能性があります。

 しっかりと生活保護の制度の仕組みを理解し、理念を紐解いていくことが「生活保護に対するマイナスな感情」と向き合う第一歩になるのです。

 今回は「具体的にどんな人が必要としているのか」や「捕捉率」などの概念から説明させていただきます。

人口のどのくらいが必要としているか

Mohamed HassanによるPixabayからの画像

 生活保護は「日本の最後のセーフティネット」と呼ばれており、個人の力では生活していくことができないほどの経済的困難な状態のときに、最後の砦として利用できる制度です。

 つまり、本来生活保護が対象としているのは下記のような人たちなのです。

生活保護の対象者について

・働いても生活をしていくことができない人
・失業保険などの本来の社会保障を利用できない人
・非正規雇用などの冷遇された環境に加えて、単身で子育てなどをしなくてはいけない人
・障害が原因で働きたくても働くことができない人

 理由はどうあれば、生活保護が対象としているのは「利用できるものをすべて利用したうえで、それでも生活していくことができない人たち」です。

 つまり、本来であれば厳正な審査の結果「あなたは生活保護が必要だから支給します」という流れになっています。

 それでは実際に、どのくらいの人が「生活保護が必要」とはどのようにして判断されるのでしょうか。
 ここでは参議院より出されている資料にて引用させていただきます。

保護の要否の判定は、基準及び程度の原則18により、厚生労働大臣の定める基準(いわゆる保護基準)によって、最低生活費を計算し、これとその者の収入とを比較して、その者の収入だけで最低生活費に満たない場合に、生活保護が必要と判定される。 

参議院 生活保護の現状と課題 「より公正、公平な生活保護制度の構築に向けて」P.81より

 もちろん、生活保護の要件はこれだけによって判断されるわけではないのですが、この「最低限以下の収入」というものは最重要視される傾向にあります。

 これを基準に、「他に資産があればそれを売却して足しにする」などが求められます。

 つまり上のような収入の人たちが「生活保護が必要である」と判断される一つの基準となります。

 しかし日本では正式な貧困調査が行われておらず、「現状どれくらいの人が必要としているのか」ということを正確に判断することができません。

 そこで、少し前のデータになるのですが「平成19年国民生活基礎調査」での「生活保護基準未満の低所得世帯数の推計について」より、調査結果概要を見てみましょう。


平成19年国民生活基礎調査 「生活保護基準未満の低所得世帯数の推計」

 これらのデータでは、「平成19年において、生活保護基準以下の世帯数は全体の12.4%であり、そのなかで生活保護を受けているのは低所得世帯の15.3%だった」ということになります。

 この推計の下の調査を見れば分かるのですが、これは「収入のみを考えたうえで」、「生活保護基準未満の世帯はすべて保護を受給していないと考える」という条件がついているので、実際にはややズレることもあるかと思います。

 しかしそれでも、「低所得世帯が12.4%」もあり、そこで「実際に保護を受けている人が15.3%」というのはかなり衝撃的な数字かと思われます。

 一度まとめてみましょう。

・生活保護は本来、個人の力ではどうすることもできない状態で利用される
・生活保護は「最低生活費以下の収入状態」の場合に支給を受ける事ができる
・平成19年時点で、保護が必要である世帯は全体の約12.4%あると推測される
・保護が必要な世帯のなかで、実際に保護を受けているのは更にその中の15.3%と推測される

生活保護の捕捉率とは?

Peggy und Marco Lachmann-AnkeによるPixabayからの画像

 生活保護を考えるときに大切になってくるのは「捕捉率」というものです。
 捕捉率の言葉については「貧困統計ホームページ」より引用させていただきます。

捕捉率(ほそくりつ、take-up rate)とは、ある制度の対象となる人の中で、実際にその制度から受給している人がどれくらいいるかを表す数値です。生活保護制度の議論においては、生活保護の受給要件を満たす人の中で何パーセントの人が実際に受給しているかを表すこととなり、もし生活保護制度がすべての「貧困者」を対象としているのであれば、捕捉率=(生活保護の受給者数)/(貧困者数)、ということとなります。

貧困統計ホームページ 4.捕捉率の推計

 上記のことから、仮に日本で、「生活保護が必要な人すべてが保護を利用している」のであれば、先述の「実際に保護を受けている人」の割合は「100%」になっていることになります。

 しかし実際には、「15.3%」という数字であり、およそ8割以上の人たちは保護を利用せずに暮らしていることになります。

 この数字はもちろん、「予想した推計値」となりますので、実際にはどのような状態かはわかりません。それでも、一つの基準値として考えることはできるでしょう。

 それではこの「15.3%」という数字は、日本以外の国からすればどうなのでしょうか?
 ここでは「日本弁護士連合会」によって出されている資料より、他の国と日本の利用率と捕捉率をまとめた表を参考にさせていただきます。


日本弁護士連合会 生活保護Q&Aパンフ Q2「それでも生活保護の利用率は高いのではないですか?」より

 上記の表では、際立って日本の捕捉率が低いことがわかります。

 これにはいくつもの複雑な理由が絡み合っていると言えるでしょう。

 日本ではどうしても「生活保護に対してのマイナスな意見」というものがついて回ります。
 本当は利用できる水準にあるのに、それをすることができない状態に追い込まれている人というのは、実は思った以上に存在しているのかもしれません。

・生活保護対象の人のなかで、実際に保護を受けている人の割合を「捕捉率」と呼ぶ
・日本の捕捉率は推定で15%~20%と言われている
・諸外国と比べて日本の捕捉率はかなり低い傾向にある
・捕捉率の低さは理由はあれど「生活保護のマイナスイメージ」の可能性がある

生活保護は財政を圧迫する?

Peggy und Marco Lachmann-AnkeによるPixabayからの画像

 生活保護は、もちろん国家が予算を組み立ててそこから支給されています。このことから、乱暴な言い方をする人は「税金から保護を出している」という意見が出てくるわけです。

 しかし実際、「生活保護が財政においてどのくらいの比率を占めているのか?」などについて考える人は少ないかもしれません。

 そもそも生活保護費というものは「国」と「自治体」が分けて負担しています。国が「3/4」を負担し、自治体が「1/4」を負担しています。
 これらすべてをまとめて、実際に生活保護にどれくらいの費用が使われているかについてもみていきましょう。

 下の表は「日本における生活保護の将来推計」より引用させていただきます。


日本にける生活保護費の将来推計「国民年金保険料の納付率低下と長寿化を考慮したシナリオ」米田泰隆氏より

 数字が大きすぎて分かりづらく、GDP比となっていて難しい内容になっていますが、これを昨年の国家予算の内訳を含めてみてみるとまた印象が変わってきます。

 国家予算から考えると、この「3兆円から4兆円」というものは、全体から見れば数%程度であり、国家財政という部分で考えれば、生活保護は他の社会保障制度と比べると手厚くないと考えることができるかもしれません。

・生活保護費は「国」と「自治体」が分けて負担している
・生活保護費はおよそ「3兆円から4兆円」ほどになっている
・全体から見れば生活保護費は数%ほど

生活保護の不正受給

 生活保護といえばついて回るのは「不正受給」の問題ですが、こちらも実際にデータから考えてみましょう
 不正受給については「令和4年度」の生活保護の現状を参考にさせていただきます。

厚生労働省 生活保護制度の現状について

 ここで考えるべきは「内容の6割が無申告や過小申告である」という部分です。
 これは生活保護のルールで「収入があった際にはそれを申告しなくてはいけない」というものがあります。

 この「収入」にあたるものは実に多く、非常に細かく収入の申告が必要になります。そのため、「不正受給」は「収入申告を忘れた」や「自分の収入をしっかりと理解できていない」など、やむを得ない場合も含まれているということになります。

 当然、生活保護という制度の上で生活している以上はこれらのことをしっかりと把握するのは最低条件ですが、そこに制度的な複雑さや利用のしづらさが全くないとは言えないでしょう。

 生活保護に限らず、日本の福祉制度や社会保障制度は「申請主義」であり、そこに行き着くまでの難しさや難解さは、改善しなくてはいけない部分だと感じます。

 もちろん、不正受給は絶対にいけないことは当然です。

 そこをしっかりと是正し、必要な人へ生活保護を届けることこそが最も大切なことであると筆者は感じています。

・生活保護の不正受給は減少傾向であり、6割が収入申告の部分
・意図的なもの以外にも、制度的な難しさも要因として考えられる
・福祉制度や社会保障制度は利用の時点でハードルが高い

生活保護受給者は「車」を持ってはいけない?

Ulrike MaiによるPixabayからの画像

 生活保護の受給を受けていると、「生活には不必要な資産」を処分したうえで受給することが求められます。

 これは「保護の補足性」という原理に基づいて行われています。
 簡単に言えば「活用できるものはすべて活用したうえで保護を受給する」というものです。

 この原理については、「この原理ゆえに生活保護を脱しづらくなっている可能性」が指摘される場面があります。

 最近では「生活保護を受けているのに車に乗っている」ということで話題になる場面もありましたが、よく考えれば下記のように捉える事もできます。

保護の補足性の問題

・地方で通勤のために車が必要だったが、生活保護の際に手放してしまった
・衣食住にお金を使っていたため、生活を豊かにするための知識が不足してしまう
・パソコンなどの現代における必需品を持つことができず、結果として保護を脱出できない

 生活保護はもちろん、生活を保障するものであるため、そこに「最低限」という原則がかかるのは当然の話しです。

 ですが、そのために上記のような問題が発生しているのは事実です。

 これらの問題はすぐに解決するものではありませんし、最低限の生活という条件から、判断が難しい問題です。

 大切なのはこれらすべてをダメというのではなく、理由を明確にしたうえで個別に対応していくことだと筆者は感じています。

・生活保護は受給の際にあらゆる資産を活用する「保護の補足性の原理」がある
・生活保護の原理のせいで保護の脱出が難しくなる場面がある
・生活保護の基準は最低限であるが個別に対応しなくてはいけないケースも多い可能性がある

まとめ

Mohamed HassanによるPixabayからの画像

 今回は生活保護について、「コラム」としての記事をまとめさせていただきました。

 「生活保護受給者が車を乗っていたら保護を止められた」という投稿から、できるだけフラットな状態で生活保護について考えていったわけですが、そのまとめとして下記のように示させていただきます。

この記事のまとめ

・生活保護は「必要としている人が保護を受給している率」を捕捉率として考える
・日本の捕捉率の推定20%から30%と言われている
・日本の捕捉率は諸外国と比べて低い傾向にある
・不正受給はここ数年で減少傾向にあり、その6割は収入申告に関すること
・生活保護は「補足性の原理」によって、保護から抜け出しづらい構成になっている

 生活保護についての考えは実に様々な意見があるかと思います。
 当然、国民の税金によってその一部が賄われていることは事実です。しかし、生活保護は国民の生活を保障する最後の砦となります。
 そこを否定するということは、今まで積み重ねてきた福祉の考え方について根本的に見直すことにすらなりえます。

 今回はあくまでも「コラム」ということで、議論というよりはその前提となる知識についてご紹介させていただきました。

 生活保護という複雑な制度を語るときは、最低限その制度についての知識が必要となります。

 生活保護について、これを気に考えてみるのも良いかもしれません。
 以下はこの記事の作成の際に参考にさせていただいたページとなります。興味がある方はそちらもご覧いただければ幸いです。

参考ページ