【生活保護】生活保護は悪いこと?日本における最後のセーフティネットについてとは【現役専門職が解説】

 ※この記事は「厚生労働省」の記事を参考に作られています。福祉サービスは自治体により内容が異なるため、実際の福祉サービスの利用の際には必ずお住まいの自治体にお問い合わせください。

 「生活保護」と聞いて、これを見ている方々はどんなイメージがあるでしょうか?

 少なくとも、福祉にある程度知識がある人でなければ、あまりよい印象を受けないかも知れません。

 しかしながら、「生活保護」は日本の低所得者層への最後のセーフティラインになります。

 日本に住んで、税金を支払っている以上、日本国民はこの「生活保護」を使うことができる権利があります。

 今回は何かと賛否両論がある「生活保護」について、正しい知識を踏まえて考えてみましょう。

この記事を書いた人
寂 あまどい

重度重複障害児者の生活介護事業所にて3年の生活支援員を経験後、地域活動支援センターにて社会福祉士・精神保健福祉士として勤務。発達障害・精神障害を持つ利用者との関わりが主であり、障害福祉に関しての研修も担当しながら経験を積んでいる専門職3年生。ブログを通して障害福祉に関する情報を発信している。

生活保護とは?

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 生活保護とは、日本の憲法25条に規定されている「生存権」を保障するため、最低限の生活を保障し、最低限の人間的な生活を維持するための金銭的な支援を受けることができる制度です。

 これは厚生労働省より、簡潔なまとめがあるので、下記にて引用させていただきます。

引用:生活保護制度より
資産や能力等すべてを活用してもなお生活に困窮する方に対し、困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、その自立を助長する制度です。(支給される保護費は、地域や世帯の状況によって異なります。)

厚生労働省・生活保護制度より

 生活保護はイメージとして「働くことなく税金で生活する事ができる」というものがあるかもしれませんが、そもそもの大前提として「生きていくために必要な金銭すら確保できない人に対してのもの」が生活保護です。

 とはいえ、それにかかる費用が莫大であること、その財源が税金であることなどから、生活保護には常に賛否両論な意見が出ることは仕方がないことかもしれません。

 しかし当然ながら、生活保護は国の制度であるため、厳格な原理や原則に基づいて支給されています。

 それに加えて、日本には税金の使い方や政治家などに対して「選挙」という方法があり、民主的な方法での意見を主張する事もできます。

 これらのことから、「生活保護」というもの考えるとき、正しい視点に立って物事を見ていくことが大切になります。

生活保護の基本原理と原則

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 生活保護は「生活することができないほど困窮している人たちに対して支援を行う」というものですが、当然それらは国の財源によって行われているものであるため、かなり厳格なルールが存在します。

 実際に利用する際はこれらの内容について、しっかり話されることは少ないかもしれませんが、生活保護を受給するにあたって、これらの原理・原則を理解することはとても大切になります。

 本来これらの話は、受給者自身が理解する必要があることかもしれませんが、内容が非常に難しいということと、生活保護の受給が必要な人たちの精神的な余力の少なさから、これらの理解は難しい場面が多くあります。

 そのため、これから先はどちらかというと、「支援者」や「受給をしている周りの人たちが理解するべき内容」と言えるかもしれません。

 生活保護には「原理」と「原則」という、簡単に言えば大きなルールと方針が存在します。
 似たような言葉ではありますが、この2つは下記のような違いがあります。

基本原理とは?

生活保護を成立させる基本的な決まりのこと。例外が存在しない。

原則とは?

原理を成立させるためのやり方のこと。基本的には原則に従うものの、例外の対応をする場合がある。

 これらは原理と原則の言葉の意味や、後述する原理原則からの筆者なりの捉えとなります。

 原理と原則のはっきりとした違いは明記されていないものの、概ねこのような意味の違いがあるかと思います。

 生活保護を成立させているのはこの2つであり、実際の制度の面でもそのようになっています。これらを理解することで、現行の生活保護の妥当性を理解することができるといえるでしょう。

生活保護の基本原理とは?

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 生活保護の基本原理は上述したように、「生活保護を成立させる基本的な決まりのこと。例外が存在しない」ことを示しています。

 生活保護の最も根っこにある考え方であるともいえ、これらの考え方に基づいて制度という方法が考えられていくと言えるでしょう。

 これらは具体的に下記の4つがあります。


  • 国家責任の原理
  • 無差別平等の原理
  • 健康で文化的な最低生活保障の原理
  • 保護の補足性の原理

 上記の「原理」は、生活保護法の1条から4条に定められています。(生活保護法より)

国家責任の原理

 この原理は「国が生活に困っている国民へ、責任を持って必要な保護を行わなければならない」ということであり、生活に困っている人々への保護は「国の責任」として明記されたものです。

 これは生活保護法のなかで「この法律の目的」として定められているものであり、まさに生活保護の最も根幹の部分となる考え方になります。

 これがあるからこそ、国は「生活保護」というシステムを作り、実情に沿って運用していく必要があります。

 逆にこれがないと、「国は生活に困っている人たちを助けなくても良い」となってしまい、制度そのものを整備する理由がなくなることを意味しています。

無差別平等の原理

 この原理は「どんな人であり、どんな理由で生活に困ってしまっても保護の対象になる」ということを意味しています。

 生活に困ってしまって生活保護を受給する際、その精査を行う各自治体は当然、保護を行う人のことをよく調べます。

 その人がどんな生活歴があるのか、どんな経緯で生活保護を受給するに至ったのかということを調べるのですが、その理由にかかわらず必要であれば生活保護を受けることができます。

 生活困窮の理由や、どんな人かという理由で保護を受けられないということは、この原理によって保障されています。

 これがないと例として「ギャンブルで困窮したのは貴方の責任なのだから、保護は受けられません」ということが通ってしまうことになります。

健康で文化的な最低生活保障の原理

 この原理は、「保護を受給している人であっても、健康で文化的な最低限度の生活を維持できる保障を行う」ということです。

 生活保護についての意見や考え方は賛否があり、「どのくらいの保護を行うのか?」ということは常に議論されています。

 そんな中でも、この「健康で文化的な最低限度の生活」というものが、現在の最低ラインとなっています。

 このラインは、人間が人間らしい暮らしをしていくことができる最低限度のものということであり、これを下回ると「独房で生活している」というレベルの生活になってしまうことすらあります。

 そのような自体を避けるためにも、この原理はあるといえるでしょう。

保護の補足性の原理

 この原理は「保護を受ける人たちが持っている能力や資金を活用したなかで、それでも最低限の生活が維持できなくなった時に、初めて生活保護を活用できる」ということです。

 生活保護を受けるときには、「資産を調査する」や「家財道具の売却」などを求められることがあります。これらはすべて保護の補足性の原理によって行われており、「まずは自分でできることをして、それでもだめだったら生活保護を使ってください」ということでもあります。

 日本における生活保護とは、まさに「セーフティネットの最終手段」という考え方がなされており、「あらゆる手段を尽くしてもだめだった」という時に選ばれるものとなります。

 この保護の補足性の原理こそが、生活保護のラインを見極める一つの手段であると言えます。

 これがないと「多分生活することができるけれど、楽だから生活保護を受給する」ということが通ってしまう可能性があり、それらを予防するための基準でもあります。

生活保護の原則

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 生活保護の原則は前述の通り、「原理を成立させるためのやり方のこと。基本的には原則に従うものの、例外の対応をする場合がある」ということです。

 原理と似た意味合いがあり、理解の難しさがあるかと思いますが、これの最も大きな違いは「原理を成立させるための方法」というところです。

 原理が「変えることのできない絶対的なルール」であるのに対して、原則は「ルールを守りながら実際の困りごとに対応する柔軟なやり方」という考え方であり、基本的には原則に従うのですが、例外的な対応を行うことがあるものです。

 しかしながら、あくまでも原則は原則であるため、よほど緊急に迫られたときでなければ「例外はない」と考えたほうが良いでしょう。

 これらの原則を理解することで、具体的な生活保護の利用のイメージがつきやすいと言えるでしょう。

 具体的にそれらの「例外」は下記のような場のことを示します。

・福祉系の事業所等で、生活保護が緊急に必要であるという要請を受ける
・病院などの機関で、重篤な病気があり生活保護の受けることが必須な患者がいる
・法的な機関であり、刑務所や保護施設を退所して地域で生活する時に、身寄りのない人に生活保護を利用しなくてはいけない

申請保護の原則

 生活保護は基本的に、「自分や家族で申請をする」ことで初めて利用の開始がなされます。

 これは生活保護に限らず、ほとんどの福祉のサービスで共通しているのですが、「自分で申請する」ということが最低ラインになります。

 そのため、「客観的に見てあの人は生活保護の対象だから、国が支援します」ということにはならず、あくまでも自分の判断が必要になるというわけです。

 このため、生活保護の受給を考える人たちは「自分に生活保護が必要である」ことを相手に伝える事が必要になります。

 自分の生活状況や、扶養してくれる家族の状態などについては、各自治体が調べることになるのですが、そこに至るまでは自分で行う必要があります。

 これは例外として、緊急の場合は申請を後回しにして、必要な保護を行うことができる場合があります。

基準及び程度の原則

 この原則は、「健康で文化的な最低生活保障の原理」から一つ進んだものであり、具体的に「保護の基準」についての原則になります。

 当然ながら原理に従って、健康で文化的な最低限度の生活を保障するものですが、これらの基準は複雑で、5年に一度厚生労働大臣が定めている基準が改定されることとなります。

 これらはその時の社会情勢によって全く変わるので、保護受給をしている人たちにとっては大きな変化のタイミングとなります。

必要即応の原則

 生活保護の対象となる人達にはいろいろな生活環境や要素を持つ人たちがいます。

 そんな状態ゆえ、下記のようなところから保護の必要性というものは変わって来ます。


  • 保護対象者の家族状況
  • 保護対象者の年齢や性別
  • 保護対象者の住環境や所在地

 上記のような違いを考えたうえで、必要に応じた保護をしていくというものがこれになります。

 まさにこれは例外の対応が多くなりがちであり、個別的な対応の可能性の一つであると言えます。

世帯単位の原則

 生活保護の支給は、「世帯」を対象としています。

 このため、同じ世帯に所属する人たちは一つのまとまりとなって保護の受給を受けることになります。

 世帯を一つのまとまりとするため、「子どもが大きくなって働くようになったら収入申告をしなくてはいけない」ということが度々あります。

 この場合は、別の世帯にする世帯分離などの対応が必要になる場合があるなど、実際の生活保護の利用においてはハードルとなるケースがあります。

まとめ

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 今回は生活保護の法的な概要について解説させていただきました。

 まとめると下記のようになります。

本日のまとめ

・生活保護は「国の責任で国民に健康で文化的な最低限度の生活」を保障しているもの
・生活保護には原理と原則があり、「例外の有無」が違いとなる
・生活保護は誰に対しても差別なく支給され、その時の状況に合わせて支給される。
・生活保護は基本的に世帯に応じて支給される。

 今回は生活保護に関する法的な部分で「原理」「原則」を紹介させていただきました。

 これらは少し複雑な内容かもしれませんが、生活保護の制度の概要を理解することで、「生活保護=悪いこと」という認識を改めることができるかもしれません。

 このサイトでは今後、生活保護のより具体的な内容についても解説させていただきますので、そちらもご覧いただければ幸いです。

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